不倫・慰謝料について

Q

不貞している相手がまだ同居している場合、慰謝料は必要?

結論からいうと、多くの弁護士の見解は少額にとどまるとの見解を示していると思われます。

夫婦における保護法益は、「夫婦共同生活の平和の維持」にあるとされています。

そうすると、円満に戻っている同居状態だと「夫婦共同生活の平和の維持」に回復しています。

そこで考えてみるとA説とB説が考えられます。

A説は、不法行為は直ちに遅滞に陥るのであるから加害行為の時期も直ちにとらえるということになり、そして、一度、別居やケンカ・口論が絶えない状況に置かれた以上、それはその後回復されたからといっても、それなりの損害は支払わないといけない、という見解です。

これに対してB説は、損害は評価であり、口頭弁論終結時で決まるのであるから、それまでに円満に家庭が回復していれば損害は基本的にはなくなるので、認められるとしても少額にとどまるという、見解です。

個人的には、A説、B説、いずれにも難点があり、継続的に口頭弁論終結時までの夫婦共同生活を観察して、それを乱された程度を精神的慰謝として賠償を命じるという見解が相当のように思われます。

今般、同居している夫婦の夫が不貞した事件において、150万円の支払を命じる判決が言い渡されました。名古屋地裁平成29年9月4日は、約4カ月の不貞行為につき150万円という評価です。これは当事務所が勝ち取った判決です!

判決は、被告と夫が不貞行為を継続していた期間や原告と夫の婚姻期間、離婚や別居には至っていないものの、原告と夫との間で未だに不貞行為に関してケンカになることがあること、被告と夫の不貞行為の発覚後、原告は適応障害、抑うつ状態と診断されているところ、その時期からみて、不貞行為が一因となったことは否定できないことなどの事情に、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告の精神的苦痛としては150万円を認めるのが相当である、というものです。

理論的にみると、この事件は、夫が不貞行為をしていたものの、特段別居をしていたという事情もなく、口論などがあったとか、うつ病になったとかの事情があるとおもわれますが、夫婦共同生活の平和は維持されており、その乱されたものが、どうだったか、というものであると思われます。もっとも、これは不真正連帯債務の関係にありますから、実質は75万円程度ということになるのだろうと思われます。こうした場合、リターンマッチ訴訟もあり得ますので、訴訟は、長引くので実務的ではないと考えられます。しかし、原告の精神的苦痛を考えるとき、離婚の話しや別居の話しも出ておらず、「乱された」程度の問題としては、やや損害の評価が高いのではないか、とも考えられます。

Q

婚姻破綻後の不貞の相手方に対する慰謝料請求

不倫慰謝料については、保護法益が婚姻共同生活の平和の維持という人格的利益ととらえ、不貞前の婚姻破綻が抗弁となります。

故意又は過失の立証が必要になりますが、既婚者であることを疑わせる具体的事実、つまり疑いを抱く事情がない限りは不倫かどうか調査義務はありません。

なお肉体関係を持った当時、既に離婚していると誤信した場合や婚姻関係が破綻していると誤信した場合、その誤信に過失がある限り、過失による不法行為となります。

その他の抗弁としては、消滅時効、権利の濫用などがあるものと考えられます。

本件のような場合は本人訴訟の場合、たんたんと弁論で手続が進行してしまいます。そうすると、不貞に関する事実関係と婚姻関係の有無・時期を把握することが重要となります。

しかし、婚姻破綻の時期は法的な事実認定の問題ですから、弁護士などの法律家の意見と当事者の意見に大きな差異が生じると考えられます。

そこでこうした点につき、不貞に関する事実関係と婚姻破綻の有無・時期は争点整理に資することから弁護士を選任のうえ、弁論準備手続に付することが相当と思われます。

また、他方、配偶者・相手方が不貞を否認している場合は、調査会社の報告書の提出など的確な立証を促す必要があります。この点は、弁護士が入っている場合は和解による解決が多く、非公開手続で、冷静さと感情を越えた合理的理性により、和解をしていくというためには訴訟では、弁論準備手続を利用することが相当ですが、当事者訴訟の場合は弁論で開かれ、書面の言い合い、弁論の言い合いに終始しているうちに証人尋問もしないうちに弁論が終結してしまうということもあります。

不貞の慰謝料問題については、離婚・男女問題弁護士の名古屋駅ヒラソル法律事務所にご相談ください。

Q

不倫相手に対する慰謝料額

不倫相手に対しては、どれくらいの慰謝料請求が可能なのでしょうか。これは違法性や損害の程度によって異なります。

 ポイントは、
・相手方の年齢
・職業
・資力
・不倫関係の発生に至る経緯
・継続についての主導権
・年齢差
・不倫の期間
・不倫の態様
・不倫により夫婦関係が破綻に至ったか
・夫婦間に未成熟子がいるかどうか
・関係が継続しているか

夫婦関係破綻後の不倫についても問題となります。なぜなら、離婚をする場合、別居が先行していることが多く、その場合人格権を尊重する立場から性行為を否定しなければならない理由はなく、離婚が成立するまで、他の人と交際できないとするのは行き過ぎです。一般的な期間で、門切りにはできませんが、法的保護に値する権利や利益がないとして請求を否定された裁判例もあります。

Q

不倫相手に対する慰謝料請求ではどのような注意が必要ですか。

不倫相手に対する慰謝料請求については、配偶者の不倫が直ちに夫婦関係の破綻につながらないことがポイントです。つまり、不倫をすると離婚原因にはなりますが、離婚事件を担当していると、3~4年前の離婚話が出てくることがよくありますが、許して元に戻る夫婦もいるのです。

そこで、不倫相手への慰謝料請求と夫婦関係の調整はイコールではありません。なぜなら、夫婦関係は慰謝料だけではなく、子どものことや慰謝料以外の財産分与などの離婚給付も問題となるからです。

そこで、名古屋駅ヒラソル法律事務所の弁護士としては、依頼者の方に教えてほしいこととしては以下のことがあります。

・そのときの夫婦の状況
・申立人の慰謝料請求の真意・目的

特に婚姻関係を維持したままで不倫の相手に慰謝料請求をする場合、失敗している例を多く見ます。特に行政書士や司法書士に頼んで紛争の解決の経験に乏しい法律職に相談したことから、取り返しがつかなくなっている例もありました。さて、結婚しながらの慰謝料請求の場合は、夫婦関係の修復と権利の回復や今後の不法行為の予防が目的か、また手続きをとることにより、今後生じる事態や結果の予測等について検討する必要があります。

特に離婚されないで、夫婦関係の修復を目的とする場合も、弁護士に相談するべきだと思います。その後、結局、離婚になるというケースは少なくなく、直結する、といえるほどではないのですが、連結しているとはいえると思います。そうしますと安価な価格で、慰謝料の示談をする前に、先読みをして妥当性を法律相談を受け、場合によっては代理人になってもらうことをすすめます。

Q

不倫相手に対する慰謝料の根拠は何ですか。

配偶者の一方が他の異性と不倫関係になった場合、他方の配偶者は、その第三者に対して、不法行為による損害賠償を請求できます。

具体的には、最高裁昭和53年3月30日が、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り・・・他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、精神的苦痛を賠償する義務があるとされています。

ポイントは不倫をした2人は連帯債務の関係にあるので、二重には請求できないということになります。

一般的には、夫婦共同生活維持の平和という保護法益が侵されるからと考えられています。

Q

離婚慰謝料はどのように計算されるのですか?

慰謝料の算定要素に照らして総合的に決められます。考慮要素になるのは、当事者の年齢、結婚期間、婚姻生活の状況、請求者側に落ち度がないか、不倫の態様(相手の認識・意図、不倫期間、不倫の具体的内容・頻度)、不倫の主導者、不倫の被害に関する状況、精神敵苦痛、子どもの存在、慰藉について適切な措置を講じているか否かです。その他社会的地位・職業などが考慮される場合があると考えられています。

Q

既婚男性と不倫をしていますが、奥さんとなかなか離婚できず先に婚約をしてしまいたいと思いますが、奥さんがいる人と婚約ってできるのでしょうか?

結論からいうと、仮に婚約をしたとしても公序良俗に反し無効となり、法律的な効力はないでしょう。もっとも、既に婚姻関係が破綻している男性の場合は婚姻が有効になることもあります。
夫婦には貞操義務があり、配偶者以外と肉体関係を持ってはいけないと考えられています。また、民法は重婚を禁止しています。したがいまして、当人同士で結婚の合意があり、後は彼が離婚をするだけという状態にあったとしても、婚約は民法90条に違反して無効にあるケースが多いと思います。

Q

独身といっていた彼が既婚者であることが分かりました。でもなかなか別れないでいるうちに、彼の奥さんから慰謝料請求を受けてしまいました。私は慰謝料請求をしないといけませんか。また、だまされていた時間の慰謝料請求はできるのでしょうか?

まず、不倫の慰謝料請求は不法行為という法律に基づいて行います。そして、不法行為は故意又は過失を必要としていますので、あなたが、彼が既婚者だと知らず、特に一般の人でも既婚者だと分からないだろうと考えられる場合は慰謝料請求に応じる必要はありません。ただし、気がついた後については慰謝料責任が発生する可能性があります。
また、たまにモテる既婚男性が風俗に行く感覚で、若い女性に独身とウソをついて肉体関係を持っているというケースがあります。しかしながら、彼が独身です、とウソをついていても、婚約が成立していたなど法律上保護に値する男女関係でない限り不法行為は直ちに成立しないものと考えられます。もし結婚約束までしていたというような場合は慰謝料請求権が発生するということになります。もっとも、物的証拠がないと裁判所で勝つことは難しいでしょうから、親や親戚に挨拶しているなど婚約をしているカップルであれば通常行う行為をしていたことなどが必要になると考えられます。

不貞行為は不法行為か

Q

不倫相手の責任は離婚の場合の一方と同等なの?

東京高裁昭和60年11月20日は次のように説示しており、まずは夫婦間の問題解決を促している。
「合意による貞操侵害の類型においては、自己の地位や相手方の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて相手方の意思決定を拘束したような場合でない限り、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものとみるべきである。けだし、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって 持されるべきものであり、この義務は配偶者以外の者の負う婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なるからである。
本件についてみると、花子は控訴人に対して雇用主の妻という社会的、経済的に優越した立場にあったのであるから、控訴人の誘惑的言動も少なくとも初期においては、花子の意思の自由を拘束するようなことはなかったと認められ、このような状況の中であえて守操義務に違反した同女の責任が大きいことは否定し得ない。
このことを勘案すると、控訴人の行為にみられる無責任な享楽的傾向を考慮しても、被控訴人の精神的苦痛を慰謝するに五〇〇万円をもってするのを相当とした原判決(いわゆる欠席判決である。)の慰謝料額の判断は、いささか過大といわざるをえず、前認定の諸事実及び弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人に対し支払われるべき慰謝料の額は金二〇〇万円をもって相当とする。」

同じく東京地裁平成4年12月10日も以下のように副次的なものとしています。たしかに、個々の具体的な事案をみるときには、殊に、不貞関係の発端、継続について不貞配偶者が主導的な役割を果たしている場合や、不貞関係の後に不貞配偶者に対しては宥恕しながら第三者に対してのみ不法行為責任を追及している場合などに、不貞行為の相手方となった第三者に対する慰謝料請求を認めることには、割り切れない点が残るところである。
横浜地判平1・8・30判時1347号78頁は、不貞関係の発端は不貞配偶者(夫)が被告女性を再々強引に呼び出して暴行脅迫を加えた上関係を強要したもので、肉体関係の継続についても不貞配偶者の暴行脅迫により続けられたという事実関係の下において、不貞の相手方女性に対する妻からの慰謝料請求を棄却している。
また、横浜地判昭61・12・25本誌637号159頁は、夫の不貞行為の相手方に対する妻からの慰謝料請求につき、認容額を低額にとどめた上(請求額1000万円に対して150万円を認容)、判決文中において、夫も妻に対して不法行為責任を負い、両者は不真正連帯債務となることを説示しているが、学説にも、不貞行為を理由とする損害賠償請求の認容額は名目的な額にとどめるべきであると説くものがある(島津一郎「不貞行為と損害賠償」本誌385号116頁)。
三 本件は、不貞関係の解消後、夫婦間の関係が修復して、妻は夫に対して宥恕していながら、不貞の相手方女性に対して慰謝料請求をしている事案である。宥恕しているのであれば、債権放棄をしているのではないか、と考えられてもおかしくないと思うところであり、50万円という少額とはいえ結論の妥当性という観点からは疑問が残るといえそうだ。

前記認定事実を前提として、判断するに、被告は原告と一郎とが婚姻関係にあることを知りながら一郎と情交関係にあったもので、右不貞行為を契機として原告と一郎との婚姻関係が破綻の危機に瀕し原告が深刻な苦悩に陥ったことに照らせば、原告がこれによって被った精神的損害については不法行為責任を負うべきものである。しかしながら、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方において自己の優越的地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘束したような特別の事情が存在する場合を除き、不貞の相手方の責任は副次的というべきである。

本件においては、
(1)  被告と一郎との関係は、職場における同僚であるが、一郎は主任として被告の上役にあったものであって、被告において一郎の自由な意思決定を拘束するような状況にあったものとは到底認められず、前記認定事実に照らせば、むしろ、右両名が不倫関係に至り、これを継続した経緯においてはどちらかといえば一郎が主導的役割を果たしていたものと認められること、
(2)原告と一郎の婚姻関係において不和を生じ、破綻の危機を招来したことについては、確かに被告と不倫関係を生じたことがその契機となっているとはいえ、夫婦間の信頼関係が危機状態に至ったのは一郎の生来の性格ないし行動に由来するところもあるものと認められ、また、一郎がこのような行動をとったことについては、原告と一郎との夫婦間における性格、価値観の相違、生活上の感情の行き違い等が全く無関係であったかどうかは疑問であること、
(3)婚姻関係破綻の危機により原告が被った精神的苦痛に対しては、第一次的には配偶者相互間においてその回復が図られるべきであり、この意味でまず一郎がその責に任ずるべきところ、原告はこの点について一郎に対する請求を宥恕しているものと認められること、
(4)原告が本件訴訟を提起した主たる目的は被告と一郎との不倫関係を解消させることにあったところ、本件訴訟提起の結果被告と一郎との関係は解消され、この点についての原告の意図は奏功したものと認められること、
(5)この結果、原告と一郎との夫婦関係はともかくも修復し、現在は、夫婦関係破綻の危機は乗り越えられたものと認められること(この点につき、原告は、本人尋問において、一郎と離婚するつもりであり、夫婦間の性交渉も拒否していることを供述するが、一郎は証人尋問において、原告から明確な形で離婚を求められたことはなく、平成四年五月以降は性交渉を含めて平穏な夫婦関係に復している旨を証言しているものであって、原告の右供述は、一郎の右証言内容及び周囲の客観的状況(原告と一郎は同居しており、現在に至るまで、原告から一郎に対して離婚調停、離婚訴訟等は一切が提起されていないことはもとより、離婚について親族を含めての話し合いが持たれたこともない。)に照らし、にわかに信じることはできない。原告本人の右供述は、法廷当事者席の被告に聞かせることを意識しての発言というほかはない。)、
(6)被告と一郎との関係解消は、一郎の反省によるというよりも、むしろ被告の主体的な行動により実現されたものであって、被告が勤務先を退職して岩手県の実家に帰ったことによって最終的な関係解消が達成されたこと、
(7)被告自身も一郎との不倫関係については相応に悩んでいたものであって、一郎との関係解消に当たって、勤務先を退職し、意図していた東京における転職も断念して岩手県の実家に帰ったことで、相応の社会的制裁を受けていること(これに対して、一郎は、従来の職場に引き続き勤務しているものであって、少なくとも社会生活上の変化はない。)
等の各事情が指摘できるところである。
右各事情に加えて、その他本件において認められる一切の事情を考慮すれば、本訴において認容すべき慰謝料額は金五〇万円をもって相当と認める(ところで、原告の被った精神的苦痛に対しては、一郎も不法行為に基づく損害賠償債務を負うことが明らかであるところ、被告の義務と一郎の義務とは重なる限度で不真正連帯債務の関係にあって、いずれかが原告の損害賠償債権を満足させる給付をすれば他方は給付を免れ、給付をした者は他方に対して負担割合(本件においては、一郎の負担割合は少なくとも二分の一以上と認められる。)に応じて求償することのできる関係にある、と解される。)。
なお、付言するに、本件においては、現在、本件訴訟の提起を契機として被告と一郎との関係は完全に解消されており、被告においてはもはや一郎との交際の再開を全く考えておらず、一郎においても、被告と関係を持ったことを反省して、原告との夫婦関係を修復してこれを維持していくことを強く希望していることが認められるものであるから、原告においても、過去における被告と一郎との関係に徒らに拘泥することなく、今はむしろ、一郎との間の夫婦関係を速やかに修復して、ふたりの間の信頼関係の構築に務め、今後夫婦関係を平穏、円滑に発展させていくことが、強く望まれるところである。

Q

ホスト事件とは?顧客が慰謝料を支払わないといけない??

ホスト事件というのは、東京地裁平成22年9月3日判決です。

松浦遊さんがホストクラブに勤めていたという事案ですが、このことは妻の美希さんのしらない事情でむしろ美希を愚弄するものであると表することもでき、また、不貞相手の亜梨美にも大いに責められるべき面があることを意味するものではある。しかし、その相手方である遊の責任を軽減するものであるということはできない、という趣旨の判例が示されています。

自然の愛情の発露か、それとも割り切った性交渉であるのか、こうした観点は社会通念で区別されているようにも思われます。個人的には、ホスト事件ではなく枕営業事件判決が正当であるように思われます。

Q

いわゆる枕営業事件とホスト事件

枕営業事件判決は、不法行為を構成しない。これに対してホストとして稼働している顧客は不法行為となる、という正反対の考えもあるようです。
これらは、「自然の情愛によって生じたかにかかわらず」とあるようですが、この辺りは建前論といわざるを得ず、セックスレスの夫婦の場合、夫に風俗で遊んできてほしいと願う妻もいます。
本判決は,仮に本件不貞行為の存在が認められるとしても,その内容は,本件クラブ及びそのママであるYにとっての優良顧客であったAとの間で,当該優良顧客状態の継続期間中,主として土曜日に,共に昼食を摂った後にホテルに行って性交渉をし,その終了後に別れることを月に1,2回繰り返したというものであって,この頻度はAが本件クラブを訪れる頻度と整合していたから,Aの性交渉の相手方がYであるとすれば,当該性交渉は典型的な「枕営業」に該当すると認定した。

第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で不法行為を構成するものではないと解されるとした上で,クラブのママやホステスが「枕営業」として顧客と性交渉を反復・継続したとしても,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解するのが相当であると判示し,Aの性交渉の相手方がYであったのか否かについては判断しないで,Xの請求を棄却した。なお,本件不貞行為発覚後のYの対応を巡るXの慰謝料請求については,Yが本件不貞行為を否認し,その請求を拒否したこと自体が独自の不法行為を構成するとみることはできないとした。

 「枕営業」としての性交渉を妻のいる顧客との間で反復・継続した場合や,売春婦が妻のいる顧客と対価を得て性行為を反復・継続した場合に,それらが当該妻に対する関係で不法行為を構成するかが問題となった裁判例は見当たらないが,少なくとも売春婦の場合については,本判決の上記判示のような理由から,不法行為性は否定されるであろう。
他方,「枕営業」の場合については,性行為に対する直接的な対価が支払われるものでなく,また,クラブのママやホステスが「枕営業」をする顧客を自分の意思で選択することができるという点がソープランドに勤務する女性による売春行為とは異なるところ,本判決は,前者については,「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎず,後者については,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ないと判示している。

この判示には一理あると思われるが,これまでの裁判実務では,累次の最高裁判決,特に最二小判昭54.3.30民集33巻2号303頁,判タ383号46頁が「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は,故意又は過失がある限り,右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか,両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず,他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し,その行為は違法性を帯び,右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」と判示していることを受けて,性交渉が愛情の発露であるか,遊びであったかにかかわらず,当該性交渉の時点で夫婦関係が破綻していない限り,不法行為該当性は認め,遊びであった場合は慰謝料額を低めに認定するという取扱いをしてきたとみられることからすると,本判決の上記判示が是認されるのかどうかには疑問の余地もある。その意味で,本判決が控訴されずに確定してしまい,上級審の判断がされなかったことは惜しまれる。

もっとも、本判決は社会的実態に即したものとして、社会科学的には興味深い判決といえる。

枕営業判決

第1 請求

第3 当裁判所の判断

1 本件不貞行為の存否(太郎の不貞行為の相手方が被告であったのか否か)については当事者間に争いがあるが,仮に,本件不貞行為の存在が認められるとしても,本件不貞行為の内容は,請求原因によれば,本件クラブのママである被告が,顧客である太郎と,平成17年8月から平成24年12月までの間,月に1,2回,主として土曜日に,共に昼食を摂った後に,ホテルに行って,午後5時頃別れることを繰り返したというものであり,また,太郎の陳述書(甲1)の記載内容も,上記7年間に2,3回,お小遣いとして1万円を渡したことがあったこと,平成24年の後半に入って以降は,太郎の方から積極的に誘うこともなくなり,被告からの連絡も来なくなって,自然消滅のような形で関係が終わったことなどが追加記載されている以外は,上記請求原因と同じである。また,同陳述書及び弁論の全趣旨によれば,太郎は,平成12年から株式会社Eの代表取締役を務めており,本件クラブには,平成17年3月に行って以来,月に1,2回の頻度で通うようになり,一人で行くことが多かったが,同業者を連れて行くこともあったこと,太郎が本件クラブに行ったのは平成25年4月26日が最後であったことが認められ,この認定に反する証拠はない。

2 第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,原告も主張するとおり,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される(原告は,当該売春行為が不法行為に該当しないのは,正当業務行為として,違法性を阻却することによる旨を主張するが,違法性阻却を問題とするまでもないというべきである。)。
ところで,クラブのママやホステスが,自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や,クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために,様々な営業活動を行っており,その中には,顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして,当該顧客と性交渉をする「枕営業」と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。
このような「枕営業」の場合には,ソープランドに勤務する女性の場合のように,性行為への直接的な対価が支払われるものでないことや,ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して,クラブのママやホステスが「枕営業」をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。しかしながら,前者については,「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎない。また,後者については,ソープランドとは異なる形態での売春においては,例えば,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。
そうすると,クラブのママないしホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが「枕営業」であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。

3 そこで,これを本件についてみるに,上記1の認定事実を総合すると,太郎は,原告が主張し,太郎が陳述する不貞行為開始時点の平成17年8月の約5か月前から,本件クラブに月に1,2回は定期的に通い,企業の社長として同業者を連れて行くこともあったものであって,本件クラブやそのママである被告にとっての優良顧客であり,そのような優良顧客状態が本件不貞行為終了時まで続いていた上,太郎がしていた不貞行為の態様は,主として土曜日に,共に昼食を摂った後に,ホテルに行って性行為をし,その終了後に別れるというもので,「枕営業」における性交渉の典型的な態様に合致する上,このような態様の性交渉を月に1,2回繰り返したというものであって,その頻度は太郎が本件クラブを訪れる頻度と整合していたのであるから,太郎の性交渉の相手方が被告であるとすれば,当該性交渉は典型的な「枕営業」に該当すると認めるのが相当である。
なお,原告は,7年以上にわたって原告の夫と肉体関係を持ち続けた被告の行為は,異性としての好意がなければ存続し得ないなどと主張するが,原告主張の本件不貞行為の期間中,太郎が本件クラブの優良顧客であり続けたことは上記認定のとおりであり,そうである以上,その期間「枕営業」が続くことは何ら不自然ではないから,原告の上記主張を採用することはできない。
そうすると,本件不貞行為が太郎の妻である原告に対する不法行為を構成することはないというべきである。

4 原告は,大阪事件判決を挙げて,本件不貞行為も不法行為を構成する旨主張するが,大阪事件判決(甲9,10)は,当該判決の対象事件のうちの不貞行為に基づく損害賠償請求事件で不貞行為の相手方とされた女性(以下「A」という。)が,当該不貞行為をした男性(以下「B」という。)の妻(当該損害賠償請求事件の原告。以下「C」という。)が勤めていたクラブの後輩のホステスであり,Aとともに何度も海外旅行に出かけたほか,BをAの自宅に通わせて,性交渉を繰り返し,Bが深夜にA宅から出てきた現場をCが押さえたことを契機として,上記海外旅行の事実も発覚して,BとCの婚姻関係を破綻させたと認定しているものであり,AがBと海外旅行に何度も行ったり,Bを自宅に通わせたりしている点で,「枕営業」の範囲を逸脱していることが明らかであるから,本件不貞行為とは事案を異にし,本件に適切ではない。

5 原告は,昭和54年最判及び平成8年最判を挙げて,「枕営業」であろうとも不法行為を構成するというのが判例であるかの如き主張をする(なお,原告は,上記各最判の出典として,判例タイムズしか挙げていないが,両最判は,いずれも,最高裁判所民事判例集に登載されている正式の判例である。)が,このうち,昭和54年最判の判示事項は「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲するに至った女性の行為と,右未成年の子に対する不法行為の成否」であって,不貞行為が未成年の子に対しては不法行為を構成するものではないと判示した点のみが判例とされているものである上,当該事件の事案では,確かに肉体関係を持った女性はホステスではあったが,相手方男性との間の子を出産し,その後,同棲するに至っていると認定されているから,「枕営業」である本件とは事案を全く異にするばかりでなく,原判決が,相互の対等の愛情に基づいて生じた関係は当該男性の妻に対して違法性を帯びるものではないと判断した部分について,そうであっても当該妻に対する関係では不法行為を構成するとして,当該原判決を破棄したものであり,「枕営業」も相手方男性の妻に対する関係で不法行為を構成するとしたものではない。また,平成8年最判の判示事項は「婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無」であって,甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において,甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,丙は,甲に対して不法行為責任を負わないと判示した点が判例とされているものであって,これまた,「枕営業」が相手方男性の妻に対する関係で不法行為を構成するかどうかについて判示したものではない。したがって,原告指摘の上記各最判は,いずれも本件に適切ではなく,原告の主張を採用することはできない。

6 なお,原告は,本件においては,被告が営業目的をもって太郎との肉体関係に及んだとの主張は,いずれの訴訟当事者からも提出されていないと主張するが,不法行為に該当する事実は,請求原因事実であって,その主張立証責任は原告にあるから,原告の上記主張は失当というほかない。

7 また,原告は,被告が原告の慰謝料請求に対し,本件不貞行為自体を否認し,その請求を拒否していることにより精神的苦痛を受けたと主張するが,被告の上記行動それ自体が独自の不法行為を構成するとみることはできない。

第4 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官始関正光)

Q

最高裁は不倫を違法としているのですか。

最高裁判所は戦前から一貫して不法行為が成立すると判断しています。

裁判所としてはどれだけ仲良くても、法律婚制度がある建前から、不倫について悪い行為ではない、と判断することに躊躇を感じているからです。

つまり、最高裁が配偶者の不倫相手に対する慰謝料請求を否定するとの立場をとると、方が正面から愛人関係や妾関係を認め、乱交を奨励することになりかねないことを危惧しているものとみられています。

フリーセックスの国は以外と少なく法律婚制度を採用している場合は、少なくとも民事上の責任は生じるというのは比較法の見地からも妥当といえるでしょう。この点、不貞の慰謝料否定説は子の福祉の観点から建設的な話し合いを不可能にする、という点に主な論拠がありますが、不貞の慰謝料を否定したところで、近時の仕立て上げDVなどをみていると、別に子の福祉のために建設的な話し合いが進むとも思えず否定説の論拠は薄弱なのでしょう。もっとも、現時点では、最高裁の立場は概ね多くの国民から支持されているといえそうです。ただし、刑事罰ほどではないが民事罰があるという微妙な違法行為であるが故に、また様々な見解が入り乱れている故に、不貞の位置付けをめぐっては、恐喝、強要などの被害が発生しやすいといえます。つまり、比較的、モノガミーに対してポリガミーといって婚姻しても性交渉はしても良いという考え方もある一方で、道徳的な考え方からみると、婚姻の安定のためには不貞相手を婚姻破壊者として法的責任を負わせるべき、というのが支配的モラルと、両極端の考えもあるわけです。しかし、日本では、未だポリガミーが社会通念になり、セックスフレンドを持てるとか、精神的なよりどころとは別に快楽を求めるための性交渉が別人との間で是認されるという考え方はなさそうです。

Q

不倫って違法なのですか。

学説では、不貞の慰謝料否定説も有力です。

1 婚姻関係破綻の有無、第三者の行為の態様にかかわらず、常に不法行為になる見解
一般的にこの考え方を支持する人は少ないといわれますが、いわゆる貞操義務違反からすれば、この見解が最高裁の見解に近いようにも思います。

2 事実上の離婚後は夫婦後の貞操義務は消滅するから、その後に夫婦の一方と不倫をしたとしても第三者に不法行為責任は生じないという考え方です。
1をベースにその範囲を減算する考え方で最高裁の判例となっています。問題は、「事実上の離婚」をどのようにとらえるかです。この点、2説では、法律婚の夫婦が離婚の合意をして別居し、両者の間に夫婦の間に夫婦共同生活の実態が全然存在しなくなったが、離婚の届出をしていない状態をいいます。この定義は裁判官の判断によっては、別居後の不貞であっても不貞に該当するという考え方、別居後の不貞から別居前の不貞を推認する考え方、別居後は一切認めない考え方の3つがあるように思われます。
最高裁では、3カ月で破綻を認めて不法行為責任を否定していますが、別居をしたとしてもこどもがいる場合は直ちに夫婦共同生活の実態がなくなる、とするのは無理があるように思いますので、私が家事調停官などでしたら破綻後の不貞行為でも一定期間は貞操義務は直ちに消滅するものではないと考えます。この点は、裁判官によって考え方が分かれ、むしろ別居後の証拠では一切ダメといっている判事も少なくないように感じられます。

3 3説は、離婚の合意をしたうえでの事実上の離婚に至らなくても、婚姻関係の破綻後は夫婦間の貞操義務が消滅するものとして、その後に夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は不法行為を負わないという考え方です。これは2説と比較すると実務に近いといえます。要するに、別居してしまえば、婚姻関係が不貞訴訟の関係では「破綻」したとみて、意思に関係なく不法行為責任を生じさせないという考え方です。別居は悪意の遺棄とならないように、離婚を前提とした別居と正面からいう別居は珍しいといえます。したがいまして、2説のように、離婚の合意までは必要ないという見解のように思われます。ただ、2説と3説の間では、現実的には、夫婦間で離婚協議が行われていることが珍しくないいといえるので、有意な差はないように評価できます。

4 夫婦の一方の他方に対する貞操請求権を侵害するかは、他者の自由意思に依存するものであるから、一方の被侵害利益は第三者からの保護という観点からは薄弱となる。ゆえに、第三者が不貞行為を利用して夫婦の一方を害しようとした場合のみ不法行為が成立するという見解です。
この4説ですが、正直、あまり臨床を知らない学者の形而上学的議論のように思います。要するに、「ハニートラップ」のような悪質のような場合に限り不法行為責任が生じるというものです。しかし、一般的に不貞行為はもちろん自由意思で不貞をするケースがありますが同一目的をもっている職場でのことや、あるいは、離婚の悩みを相談している際に生じることが多いものです。ですから、4説ですとほとんど不法行為責任が生じる余地がなくなり、非常識な結果となりますし、主観的な意図の認定が難しいと考えられることからあらゆる角度からみて妥当性がないでしょう。

5 貞操請求権は、対人的権利であり、その侵害は相対的なものであるから第三者による債権侵害であるから、暴力、詐欺、強迫など違法行為の手段によって強制的・半強制的に不貞行為を実行させた第三者に限って不法行為を認めるというものですが、債権侵害と考えるのであれば、これら暴力などのしぼりは理論的に必要ないはずであり、理論的になり成っておらず主張自体失当であるように思われます。

6 いかなる場合にも第三者は不法行為責任を認めるべきではないということです。
これは多くの学者が支持しているものです。そもそも不貞をした両者が自由意思で性交渉した場合、その場に居合わせない第三者に不法行為となることなどあり得るのか、物事は相対的ではないのか、夫婦間の慰謝料請求で処理すれば足りるのではないか、ということです。この学説は影響力があり、不貞の慰謝料の減額や事実認定が厳しくなっているのは、不貞の慰謝料否定説の影響を受けていると考えられています。

婚姻障害事由がある場合

Q

不倫内縁の場合、法的保護はありますか。

不倫関係にある男女の場合、女性の側としては男性側に素早く離婚をして、前婚を清算して欲しいと考える気持ちが多いと思います。

原則的には、離婚の際も不倫にはペナルティがあるくらいですから、内縁も原則は法的保護は受けられないと考えておいた方がよさそうです。

しかし、法律婚が実態を喪失している場合には、通常の内縁と同じような取扱いとなると考えられます。

法律婚が形骸化しているとのポイントは、別居期間、当事者の離婚意思、不倫的内縁関係の継続期間、法律婚当事者での経済的給付や交流の状況などから判断されます。

例えば、離婚をしていなくても、婚姻関係が破綻しているということであれば、内縁の妻に内縁解消に伴う財産分与を認めたものもあります。

また、法律上の妻とは離婚することになっているとの男性の説明を受けた女性が、不倫関係に入り、3人の子どもをもうけ住居も購入していたという事案では、内縁妻からの夫に対する内縁解消にともなう慰謝料が認められたものもあります。

このように民法上のものは良いのですが、内縁のっ妻の遺族年金の受給になるとハードルがかなり高くなるといえます。つまり「配偶者」がいるわけですから、国としても二重に支給するというわけにもいかないため、民法上の婚姻破綻よりも更にハードルを上げて形骸化まで要求しています。国の基準は厳しく、重婚的内縁については届出による法律婚がその実体を全く失っているときに限り事実婚関係にある者として認定されるものと考えられています。これはトレードオフなので、ここまでいうと、「配偶者」も国は形骸化していたのでは、といってきそうな勢いですが、「その実体を全く失っている」というのが、どのような場合をいうかが問題となります。それは、当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが、戸籍上の届出を出していないにすぎない場合、一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態がおおむね10年継続し、そのまま状況が固定化している場合などが挙げられます。

そして夫婦生活が続いていないことが条件となりますから、法律婚側との間では、・・・
当事者が住居を異にすること
当事者間の継続的な依存関係が存在しないこと
当事者間の意思疎通をあらわず音信又は訪問等の事実が反復して存在しないこと

です。これは、現在のねんきん事務所でも広く利用されている基準で、客観的要件を重視していることが分かりますが、面会交流や法律婚妻との交流を安易に行うと、内縁妻が社会的保障(社会保障上の給付)を受けられなくなるおそれがありますので、注意が必要といえます。

これは、法律が異なるので仕方がないですが、民法の問題となる関係では比較的容易に法的保護が認められやすいところがありますが、行政法の世界になると、社会保障上の給付(特に遺族年金)は、相当慎重に判断がなされています。

Q

高校1年生同士の婚姻や再婚禁止期間に違反する内縁の保護

不倫といえども、真摯な婚姻意思があれば内縁として一定程度の保護を受けられると考えられます。

しかし、本来結婚できない場合にまで、保護を受けることができるのでしょうか。

まず再婚禁止期間についてはこれに抵触する内縁も法的に保護されることになっています。

しかしながら、社会保障関連の内縁の取扱いに関しては、反倫理的なものは保護を受けられませんが、再婚禁止期間は、嫡出の重複を避けるという法技術上の制約の制度であることから、問題はないと考えられます。

次に、高校1年生同士の婚姻についてですが、16歳同士の場合は男性が婚姻適齢に達していません。しかしながら、地方の実情などを考慮し判断するのが相当であり、古い裁判例を中心に16歳を内縁の夫とする内縁関係も公序良俗に違反しない限り、法的保護に値すると考えられます。

もっとも、内縁が成立するには婚姻意思に加えて、夫婦として共同生活の実態が必要となります。そして同居義務、扶助義務、貞操義務などを伴っていますから、都市部では単なる恋愛関係にすぎず、内縁関係であるとか、婚約関係にあるとまではいえないケースが多いように思われます。

Q

同性愛の場合

Q 同性愛者の場合でも、不貞の慰謝料などは発生したり、請求されることはありますか。また、内縁として法的保護を受けることはできませんか。

名古屋の離婚弁護士のコラムです。例えば男性同士でパートナーとなった場合についてですが、日本では民法に照らして異性間の婚姻を前提としており、婚姻障害事由があるものとされて、婚姻意思を持つことができないとされています(佐賀家庭裁判所審判平成11年1月7日)。そうすると、男性同士のパートナーの場合原則的には婚姻意思を有することがありませんから、これを前提とする同居、協力扶助義務、貞操義務などの埒外にあるものと考えられます。

したがって、民法上の解決は難しいと考えられますので、司法機関を用いることは難しいと考えられます。もっとも、長年にわたり同居していた、経済的結合関係がある、といった個別具体的な事情に照らしては、事実上の婚姻関係にあるものとして、互いに協議のうえ紛争を解決することが相当であると考えられます。具体的に、日本国憲法は、必ずしも両性の本質的平等を唱えたのみであり同性婚やパートナーシップに公的認証を与えることは憲法違反ではなく、むしろ平等原則が個人の尊重から来ていることに照らしますと、訴訟外で、女性の場合に準じて、パートナシップを解消する場合は弁護士に相談し、仲裁契約を締結し、仲裁判断をしてもらう、といったことも考えられるものと思われます。したがって、パートナーシップがあるからといって、望ましくはないでしょうが不貞行為をしたとしても司法的解決を求めるのは難しく、互いの尊厳を尊重し、男女の中に準じて弁護士に仲裁判断をしてもらうことが妥当であると考えられます。

まだまだ偏見は強いと思いますが、私見では男女の場合に準じて、その心理的結びつきの強さなどを踏まえて、その解決水準をやや低いものとすることが妥当ではないか、と考えています。なお、女性同士のカップルにつきDV法に基づく保護命令が出された事案があるとのことです。

性交渉がない場合

Q

異性と二人きりで頻繁に食事に行ったら不貞?

夫が会社の同僚の女性と頻繁に二人で食事に行っています。これは離婚原因となる不貞行為にはならないでしょう。

シュシュ:食事に行った写真だけの探偵資料とかありますよね。あれで不貞の立証になるのですか。
弁護士:まあ色々議論があるところですが,微妙なところではないでしょうか。判例では性的関係を結ぶことという理解が一般的ですが、枕営業判決と同様に夫婦共同生活の平和の維持を乱すのであれば損害賠償が認められる可能性も否定はできません。
シュシュ:平成8年の最高裁判例の保護法益だよね。
弁護士:うん。ただ、現実のところ、夫と同僚の女性との関係や食事に行く頻度、その後の過ごし方などの事情が把握されていることが多いと思います。実際のところは、不貞行為は、事実認定する決め手に欠けるが心証としてはクロという場合に、裁判官としての賠償を認めているように思います。
シュシュ:離婚の「不貞行為」はどうなるのかな?
弁護士:そうなんだよね。「不貞行為」∔「婚姻を継続し難い重大な事由」を併せると、正常な夫婦関係を営む意図がないとして離婚原因が認められてしまいます。そうなると、離婚慰謝料を不真正連帯債務で、負担しなければならなくなる可能性は否定できません。ただ、性交渉の事実認定ができないときは、それほど高額な金額にはならないでしょう。

離婚と子ども

Q

親権をとるには

親権をとるには、子どもと一緒に別居することが一番重要です。このような手法は国際法的には批判されていますが、日本の弁護士としては、子連れ別居をすれば親権争いを優位に進めることができます。

子どもについては年齢によりますが、15歳以上は、事情を説明してどちらが親権者になることを希望するか選ばせる方が良いでしょう。たしかに、親や裁判所に勝手に決められたという方が子どもは被害者でいられるという心理的傾向がありますが、他方の親を失う喪失感や悲しみは面会交流で補うものと考えられます。

親権は、離婚する場合はどちらか一方に決めなければなりません。そして、日本では、書物では率直に書かれていませんが、ウィキペディアに記載があるとおり、先に子どもを連れ去って別居した方に親権が認められる可能性が高いといえます。もっとも男性の場合は、子の監護の見通しをつけておかねれかばなりませんから、両親や兄弟に監護補助をお願いするなどの環境整備をしておく必要があります。

男性が育児に参加することが増えたために、夫婦ともに親権主張をするケースが増えています。もっとも大きい子どもはその意向が重視されますから問題がありませんが、いちばん大変なのは4歳から10歳くらいまでの間です。3歳までは親権は幼児母子優先といわれており母親が親権を取得するケースが多いといえます。他方11歳以降は15歳に近づくことから子どもの意向が重視される傾向にあります。
しかし、4歳から10歳までの子どもの場合は、子の心情程度が考慮されるにすぎず、明示的な意思表示をしているとしても、子の福祉に反するとして子の意向を認めない裁判所もあります。

何事も一つしかないものを奪い合いことについては深刻です。しかも親権争いがある場合については、離婚調停も成立しません。

裁判官の視点はどちらの親が親権者になれば、子どもが幸せになることができるかという点に尽きるといっていいと思います。

具体的なポイントとしては、別居状態を前提に、現在、誰が子育てをしているのかという点です。現在は主たる監護者基準というものがあり、主に子どもを面倒をみてきた人に引き続き監護をしてもらう方が子の最善の利益に資するという考え方です。

次にポイントなのは子どもの年齢です。先ほどのように、3歳までは母子優先、11歳以上は子の意向重視ですから、4歳から10歳くらいまでの親権争うが最も激しいといえるかもしれません。

従来は、母子優先の原則というものがありました。しかし、現在は、これを継続性の原則、兄弟不分離の原則、主たる監護者基準と性差別にならないようにワーディングだけ変更したものの、判断の実態はそれほど変わらないように思います。

したがって、離婚前に子育てを問題なく行っていた母親であれば、親権を手に入れられる可能性はかなり高いといえます。例えば別居中の父親が問題なく子育てをして、父親のりゅしんのサポートもあるという状況ですら母親に親権が認められた事案もあります。したがって、父親の場合、それまで子育てに積極的に関わっていても、子どもの親権を得るのは相当な困難な問題があります。

そこで、父親としては、母親よりも良好な監護態勢が提供できることを立証し、さらに母親失格という主張をしていく必要があります。この点、不倫を問題視される方もいますが、不倫は一般的には、親権指定の要素となりません。そこで、虐待やネグレクトなどを主張する必要があります。暴力、暴言を繰り返す、食事を与えない、子どもをほったらかしにして毎日朝帰りといったケースです。

子どもが連れ去られたら、というご相談もよく受けます。しかし、結論からいうと、自分が誰にも負けない努力をする必要があります。つまり、親権が欲しければ子連れ別居した方が有利なのです。
そこで子どもが連れ去られそうになったら実家から出さない等の措置をとるしかありません。この点、子連れ別居は親権者交渉を優位に進めることができますから、離婚を覚悟して別居を決断した際に、片方の親が子どもを連れ去る場合には、これを防止するしか手立てはありません。別居されてしまった場合、子連れ別居を違法とした判例はほとんどないのに対して、自力救済出の子どもの取戻しについては、未成年者略取罪が成立するという極端な保護が与えられています。そこで、法的手卯月としては、審判前の保全処分を申立、子の引渡しを求めることになります。

実際に結論が出るには、半年程度かかります。子の監護者指定・引渡しでの結論は、親権者指定に大きな影響を与えます。

もっとも、子連れ別居した際、審判前の保全処分を求めても、子連れ別居は適法として、認められないケースが多いといえます。

子どもを引き渡すように裁判所が決定をしても、その後の手続は、直接強制が一般的です。

直接強制になるのは、全体の2~3割といわれています。

実際には、裁判所の執行官と一緒に相手方住居にいって、早朝に複数人で家を取り囲み、逃げ道をふさいでから家に乗り込むというような形です。

離婚の前に

Q

弁護士の活用方法

不倫をしてしまったり、不倫をされた場合は冷静さを失い理性的判断ができなくなりがちです。
そこで、精神医学や心理学にも詳しい法律のプロである弁護士は最も不倫慰謝料問題に相応しいパートナーとなります。

まず、冷静さを取り戻すことができますので、本人同士で話し合いというよりも、弁護士を介入させた方がスムースに論点を整えることができます。

不倫により離婚する場合、有責配偶者ということが強調されますが、現実には夫婦間が悪化し、その悩みを相談しているうちに不貞に至ってしまったというケースも少なくなく、有責配偶者とはいえ一方的に責められるかどうかは事案によります。

また、相手も離婚を求めてくることもあります。

こうした中では、弁護士を入れなければ、有利・不利が出てきてしまう可能性が高くなります。そこで、浮気がきっかけの場合、感情のもつれから建設的な話し合いができなくなる可能性があります。

そのような間に弁護士が入り、調停が成立しなかった後に、離婚協議をまとめあげたことがあるプロの弁護士が、親権や財産分与、養育費など決めなければいけないことを決めていきます。

浮気がきっかけの場合、弁護士からの請求ということもあります。たしかに慰謝料をとられるのみというケースもありますが、交渉に伴うストレスからは解放されますし、過去の判例の実情をベースラインに交渉してくれるので、強い味方となります。

浮気がきっかけの離婚トラブルで多いのは、安易な示談がその後無効になるか揉めるケースです。こうした事後的トラブルが生じるのは、「やりなおせるのか」「やりなおせないのか」前提が異なることが多いからです。まずは弁護士に依頼し、妻にも意向を確認してもらい、そののちに示談をするなどしないと、著しく低廉な示談金で不倫の泣き寝入りをしなくてはならないことがあります。

Q

離婚を切り出されたら

離婚を切り出されてご相談にいらっしゃる方も多くいます。

自分としては離婚したくないので円満調停を提起する方もいます。

さて、あなたに配偶者以外のパートナーがいる場合、配偶者にどのように離婚を切り出しますか。

離婚を切り出された場合でも性的不調和があることが少なくないので、大きなショックを受けるというケースまでは多くないと思います。

しかし、離婚を切り出されたら、相手の線路に乗るべきではなく、まずは弁護士の無料相談を受けてアドバイスを受けましょう。

アドバイスも受けないまま法外な慰謝料の公正証書を作成してから相談にこられる方も意外と多いのですが、ショックのあまり適切に判断ができないなら早急に示談段階だけでも良いので代理人を立てることをすすめます。心が乱れて感情的になtってしまうのはやむを得ないと思いますので、心を鎮めて整えてから判断をするべきです。

一般的に離婚を切り出されるという場合、相手は不倫をしていることが多いといえます。したがって、法定の離婚原因に加えて、有責配偶者からの離婚請求はできないとの解釈もありますから、パワーバランス上は、有利になっているのに、強引に寄り切られているケースが多いように感じます。

離婚を切り出された場合に感じては話し合いが重要ですが、直後に別居してしまうこともおいですので、冷静に対応するために弁護士に相談されることをおすすめします。

名古屋の離婚・不倫慰謝料問題弁護士のコラムでした。

離婚裁判

Q

長期間の別居はどれくらいですか。

法律相談において,ある程度の別居期間が必要になる,といわれることがあります。

有責配偶者の場合はともかく一般の場合はどれくらいか,ということには,弁護士によってばらつきがあるといわれています。

というのも,婚姻期間に別居期間も比例するので単純に3年や5年といったフレームワークを示すことができないからとなります。

別居の時期については,要綱(案)では,5年以上とされているものもあれば,3年以上としているものもあります。

そうすると,実務上は,3,4年の別居の経過を基本原則として,事情として,別居期間3年プラスマイナス1年とする案も提案されています。

別居期間が3年数か月という場合は,他の類型的な破綻事由と組み合わせて主張になると考えられます。具体的には,別居期間を基礎に,性格の不一致,暴行虐待,夫婦不和などを横軸にして総合的に判断するとの見解もあるようです。また,家事調停をきちんと経ていることも事情となります。調停は訴訟の通過点ですが,充実したものであれば修復可能性を否定する事実となるからです。したがって,話し合いの場といっても調停が充実したものであれば,修復の見込みがないことを否定する事情になるものと考えられます。

長期間の別居や離婚について同意があり,その他の論点について争いがある場合などは,有責性を問題としないということで紛争の激化を招かない,という点があります。

以下に紹介するように,別居期間は婚姻関係修復の試みが客観的に不可能であると思わせる別居期間である必要があります。

すなわち,相手方に別居状態を解消する手段を与えられていることが必要ともいわれています。

手段を尽くしても,婚姻関係が修復されない状態に初めて,相手方の意思に反してでも婚姻関係を解消することができると考えられます。

名古屋高裁平成20年4月8日判決
当裁判所は,原判決と異なり,控訴人と被控訴人の婚姻関係はいまだ破綻しておらず,婚姻を継続し難い重大な事由があるとは認められないから,被控訴人の控訴人に対する本訴離婚請求は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
2(1) 別居期間
以上認定の事実によれば,被控訴人が平成16年×月×日に離婚調停の申立てをして以来約3年3か月間(当審における口頭弁論終結日まで),控訴人と被控訴人は,別居状態にあり,調停や訴訟の機会を除くとほとんど話し合いの場を持つことができないこと,被控訴人が,婚姻関係を修復する意欲を相当程度失っており,離婚の意思を強くしていることが認められる。
(2) 控訴人の修復の強い意欲
しかし,それにもかかわらず,控訴人は,婚姻関係の修復に強い意欲を有していることは前記認定のとおりである。

控訴人は,△△県△△市での当事者夫婦だけを中心とし,被控訴人の母との接触が少なかったころの婚姻生活が円満なものであったことから,今一度,環境を整え,夫婦,親子三人で同じような生活をしたいという強い希望を有していることが窺える。控訴人は,△△市居住当時と現在の生活の違いをもたらしているのは,主に被控訴人の母の存在であるとの思いを抱き,同人の影響を受けない環境を確保できれば,控訴人及び被控訴人は,かつてのような円満な婚姻関係を取り戻すことができるはずであるとの気持ちが強い。
また,控訴人は,被控訴人の職場の所在地が被控訴人の実家に近いことから上記のような環境整備をすることが現実には困難であることも踏まえ,被控訴人の実家近くで生活するとしても,控訴人自身が気持ちを強く持ち,これまでは被控訴人の母から言われることは無理難題であっても従ってきたが,これからは被控訴人の母に憎まれることを恐れず,被控訴人の母にも言いたいことを言うなどしてストレスを貯めないようにしたい旨の意向を示している(乙2,3,原審の被控訴人本人)。
そして,控訴人は,△△県△△市に居住していたころの婚姻生活や控訴人の良き理解者であった被控訴人の態度を顧みれば,被控訴人の母の存在が被控訴人の態度や判断に影響を与えており,それを直すことができれば婚姻関係を修復することができるとの考えを抱いている(乙2,3)。
控訴人のこの思いの強さは,被控訴人が離婚調停を申し立てた後の平成17年×月に控訴人自身の実家からあえて○○市の居宅へ戻り,控訴人と婚姻関係修復の方向での話し合いの機会を持とうとしたことからも窺える。
(3) 以上のような控訴人の認識については,前記認定のうつ病の影響もあって客観的な事実認識に支障が生じ,被控訴人の母の言動に過剰な反応をしている面があり,客観性を欠くものではないかが懸念される。
ただし,控訴人は,現在もうつ病の治療のために通院をし投薬治療やカウンセリングを受けており,控訴人のうつ病は,今後改善,治癒する可能性がある。また,被控訴人は,医師からうつ病を根本的に治すために夫婦カウンセリングを受けることを勧められており,夫である被控訴人も夫婦関係や嫁姑関係等について医師のカウンセリングを受け,控訴人のうつ病についての認識理解を深めることで,控訴人に対する治療効果の増進も期待できるのみならず,これにより,控訴人及び被控訴人双方の嫁姑関係,夫婦関係,親子関係に対する認識の齟齬がかなりの程度解消する可能性もある。
そもそも,被控訴人と控訴人は,婚姻前の平成12年秋ころから同居し,円満な同棲関係から長男Cの出生を機に婚姻したものであって,相当期間円満な同居生活・婚姻生活を送ってきた夫婦であり,被控訴人は,平成16年×月に控訴人から○○市の居宅ヘ帰りたくない旨を言われるまでは,控訴人との別居や離婚を考えたことはなく,控訴人の言動に離婚や別居を考えるほどの大きな不満は感じてはいなかったものであることを想起する必要がある。

被控訴人が控訴人との離婚を考えるようになったのは,平成16年×月に控訴人が帰省先の控訴人の実家から○○市の居宅に帰りたくない旨を言い出した後,同年×月に被控訴人が帰宅するよう控訴人を説得するために控訴人の実家に赴き,控訴人と話し合いをしたころであり,被控訴人は,これらの話し合いの中での控訴人の言動に嫌気がさしたり不信感を感じるようになって離婚を決意するに至ったものであるが,上記の時期は,控訴人がうつ病に罹患しながら,いまだ治療を受けていないか,あるいは治療が開始したばかりのころであって,上記の時期における控訴人の被控訴人に対する感情的,攻撃的な言動は,うつ病の影響を受けたものでもあったと考えられる。
また,控訴人は,治療により平成16年当時よりは症状が軽快しているとはいえ,現在もうつ病の治療中であり,現時点の被控訴人の母との関係等についての事実認識や言動も,うつ病の影響を受けている可能性が少なからず窺える。そうすると,控訴人のうつ病が治癒すれば,控訴人と被控訴人の関係や控訴人と被控訴人の親族との関係も改善し,婚姻関係は円満に修復する可能性もなおあるのではないかと考えられる。

(4) (3)のように修復可能性に期待するには,もちろん被控訴人に無理を強いる面があることは否定し難い。
前記のような感情的で反発的な控訴人の態度に,被控訴人が疲れ果て嫌気がさし,控訴人とこの先認識の食い違いを抱えたまま一緒に生活していくことは困難であると考えることは,その心情としては理解できないところではない。
ただ,これをそのまま是認するのは,いささか躊躇を覚えるのである。
というのも,被控訴人は,控訴人からうつ病に罹患している旨を聞かされていながらこの治療に協力したりその治癒を待つことなく,平成16年×月に事実上の別居状態が開始してから4か月程しか経たない同年×月に早くも離婚調停を申し立て,平成17年×月に□□県の控訴人の実家から○○市の居宅に戻ってきた控訴人と正面から向き合わずに,同居や婚姻関係の修復を拒絶して,被控訴人の実家で生活をするようになり,同所から歩いてわずか15分の距離にある○○市の居宅に居住する長男に会いに行くこともせず,現在まで控訴人らとの交流は避けているのであり,これはいささか感情に流された行動のように思われる。
そして,被控訴人が離婚を考える原因となった控訴人の言動は,うつ病の影響を受けたものである可能性があるのであるから,控訴人の治癒を待ち,控訴人の病気の影響を取り除いた状態で,被控訴人に,控訴人及び長男Cとの今後の家族関係,婚姻関係に向き合う機会を持たせることが相当であると考えられる。
(5) 婚姻破綻の有無
上記の(1)から(4)を総合すると,次のとおりにいうことができる。
すなわち,控訴人と被控訴人の交流は平成17年×月ころからほとんどない状態となり,控訴人は,平成19年×月には,長男と共に控訴人の実家近くのマンションに転居するなど,控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているとはいえる。
しかし,控訴人は,現在も婚姻関係を修復したいという真摯でそれなりの理由のある気持ちを有していること,控訴人と被控訴人は平成12年秋ごろから平成16年×月までの3年余りの期間同居しており,同居期間中少なくとも被控訴人は,控訴人に対し大きな不満を抱くこともなく円満に婚姻生活を営んでいたのである。
したがって,今後控訴人のうつ病が治癒し,あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば,控訴人と被控訴人の婚姻関係が改善することも期待できるところである。以上の諸事情を考慮すれば,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,現時点ではいまだ破綻しているとまではいえない。

3 結論
したがって,控訴人と被控訴人との間には,婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとは認められず,被控訴人の本訴請求には理由がない。
なお,上記のとおり,本訴の離婚請求は理由がなく,これを認容することはできないから,離婚請求が認容された場合の附帯処分として財産分与の申立てをする控訴人の予備的反訴請求については,判断を要しない。
第4 結論
よって,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は,理由がないから,これと結論を異にする原判決を取り消し,主文のとおり判決する